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東京地方裁判所 昭和63年(行ウ)210号 判決

原告

清和電器産業株式会社

右代表者代表取締役

石川保男

右訴訟代理人弁護士

中町誠

被告

中央労働委員会

右代表者会長

石川吉右衞門

右指定代理人

川口實

外三名

被告補助参加人

全金同盟福島地方金属清和電器労働組合

右代表者執行委員長

野地芳夫

被告補助参加人

全国金属産業労働組合同盟福島地方金属

右代表者執行委員長

深野一雄

右両名訴訟代理人弁護士

奥川貴弥

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は、参加により生じた費用を含め、原告の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  中労委昭和六三年(不再)第一六号事件について、被告が昭和六三年一〇月一九日付けでした命令を取り消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文と同旨

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  福島県地方労働委員会は、申立人を補助参加人両名、被申立人を原告とする不当労働行為救済申立事件(福地労委昭和六三年(不)第一号の一事件)について、昭和六三年三月二日付けで、別紙(一)記載の救済命令(以下「初審命令」という。)を発した。原告は、初審命令を不服として被告に対して再審査を申し立てたところ(中労委昭和六三年(不再)第一六号事件)、被告は、昭和六三年一〇月一九日付けで、再審査申立てを棄却するとの別紙(二)記載の命令(以下「本件命令」という。)を発し、同命令書の写しは同年一一月一一日に原告に交付された。

2  しかしながら、本件命令は次に述べるとおり法律判断を誤った違法なものであるから、その取消しを求める。

(一) 原告は、以下のとおり誠実に団体交渉に応じている。

(1) 我が国の労働組合法は団体交渉についての定義規定がなく、交渉方式に特段の制限はない。そこで、労働組合法上の団体交渉には複数の交渉方式があり得ることになり、その方式の選択権については、民法の選択債権に関する規定が類推適用され、本件においては債務者である原告が選択権を有することになる。したがって、原告が選択した書面による団体交渉は適法である。

(2) 原告は、補助参加人全金同盟福島地方金属清和電器労働組合(以下「補助参加人清和労組」という。)が昭和六三年一月一一日付けで申し入れた団体交渉の交渉事項に対し同年二月八日に書面で回答し、同補助参加人が提案した暫定労働協約案及び賃金控除協定書案については同月一五日にそれぞれ対案を、時間外及び休日労働に関する協定書案については同年三月一八日に対案を提示して書面で回答し、さらに原告の右各対案について疑問点や質問があれば更に回答する旨の通告を書面で行っている。

したがって、原告は、本件団体交渉事項について団体交渉義務を尽くしているものであり、現在は右補助参加人が原告の提示した各対案について検討を加えるべき段階にあるにも拘らず、右補助参加人は何ら原告の各対案について検討を加えている形跡はない。

(二) 本件命令のポスト・ノーティス条項は違憲、違法である。

(1) 被告は、本件命令が維持した初審命令主文第三項において手交を命じた文書中に「誓約」の文言を入れることを義務付け、原告に誓約することを強制している。しかし、誓約するか否かは思想・良心に関する事柄であり、これらの事柄を内に留める自由、すなわち沈黙の自由は憲法一九条において保障された思想・良心の自由に含まれるものであるところ、右沈黙の自由は表現の自由に比べはるかに消極的、受動的かつ防衛的であり、それ自体としては社会に害悪を及ぼすことはないから、公共の福祉による制限も許されず、その保障は絶対的なものである。したがって、本件命令が原告の意思に反する誓約を強制し、不履行の場合には過料ないし刑罰の制裁を課すのは、原告の沈黙の自由を侵し、憲法一九条に違反する。

(2) また、文書による団体交渉の是非について確定的な最高裁判所の判決が存在せず、他方これを肯定する学説が存在し、これに依拠した事案につき報復的、懲罰的な性格を有する右文書の手交を命ずることは、救済命令の目的である原状回復の趣旨に反し、労働委員会の裁量権を逸脱している。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1の事実は認める。

2  同2の主張は争う。

三  抗弁

被告は、本件命令書理由中の「第1当委員会の認定した事実」記載の事実に基づき、同「第2 当委員会の判断」記載のとおり判断したものであって、右事実認定及び判断に誤りはなく、本件命令に違法はない。

四  抗弁に対する認否

本件命令書理由中の「第1 当委員会の認定した事実」において引用されている初審命令書理由中の「第1 認定した事実」記載の事実(ただし、本件命令による変更、追加後のもの。以下「本件命令認定事実」という。)についての認否は、次のとおりである。

1  「1 当事者」について

(一) (1)の事実のうち、補助参加人全国金属産業同盟福島地方金属(以下「補助参加人地方金属」という。)の存在は認め、その余の事実は知らない。

(二) (2)の事実のうち、補助参加人清和労組の存在は認め、被告主張の場所に右労働組合の事務所が存在することは否認し、その余の事実は知らない。

(三) (3)の事実は認める。

2  「2 本件申立ての経緯」について

(一) (1)の事実は知らない。

(二) (2)アの事実のうち、吉田課長が、昭和六三年一月一一日に補助参加人清和労組の執行委員長らと面会した際に、団体交渉の日程について、同月一二日までに返答すると答えた事実を否認し、その余の事実は認める。

同イないしクの事実はいずれも認める。

(三) (3)の事実は認める。

(四) (4)の事実は知らない。

(五) (5)の事実は認める。

3  「3 初審命令後の経過」について

(1)ないし(3)の事実はいずれも認める。

五  補助参加人らの反論

1  原告は、書面による団体交渉も適法であると主張する。

しかし、労働組合法が「交渉」と規定した趣旨は対席による交渉を前提としたものであることは団体交渉の果すべき機能から明らかである。そして、団体交渉は、交渉を妥結させるべく誠意ある態度で終始交渉に当たらなければならず、形式的に交渉を繰り返すだけで実質を伴わない交渉態度は、誠実交渉義務に違反するものとして団交拒否とされる。したがって、原告がただ形式的に文書による回答をしたからといって、誠実に団体交渉に応じたとはいえない。

2  原告は、本件のようなポスト・ノーティスを命じることは違憲・違法であると主張する。

ポスト・ノーティスの内容として、陳謝を命じる場合と誓約を命じる場合とがあるが、憲法の保障する良心の自由との関係が問題とされるのは陳謝を命じる場合であって、本件のような誓約を命じる場合ではない。不当労働行為をなすことが労働組合法によって禁止されている以上、今後不当労働行為をしないことを誓約するのは当然であって何ら良心の自由とは関係しないからである。しかも、本件は文書の掲示を命じたものではなく、文書の手交を命じたにすぎないのであるから、使用者に与える間接強制力は一層軽いものといえる。したがって、本件ポスト・ノーティスを命じることは何ら違憲、違法ではない。

第三  証拠〈省略〉

理由

一請求原因1のとおり本件命令が発せられて原告に交付されたことは、当事者間に争いがない。

二そこで、本件命令の違法事由の有無について判断するに、本件命令認定事実については、抗弁に対する認否欄記載のとおり、概ね当事者間に争いがない。すなわち、「1 当事者」(1)及び(2)の事実中補助参加人地方金属及び補助参加人清和労組が存在する事実、同(3)の事実、「2 本件申立ての経緯」(2)アの事実中吉田課長が団体交渉の日程について一月一二日までに返答すると答えたことを除くその余の事実、同(2)イないしクの事実、同(3)及び(5)の事実並びに「3 初審命令後の経過」(1)ないし(3)の事実は、当事者間に争いがない。

右事実によれば、本件の事実経過は、次のとおり要約することができる。

1  補助参加人清和労組は、昭和六三年一月一一日付けで清和労組の結成通知をするとともに、団体交渉の申入れを行い、同月一三日その督促をしたところ、原告は、同月一八日「質問、申し入れ並びに回答書」と題する書面で、清和労組の結成手続その他の事項について質問するなどしたうえ、団体交渉申入れ事項については、後日文書をもって回答すると答えた。これに対して補助参加人清和労組は重ねて団体交渉の申入れをしたが、原告は、右の質問に答えることが団体交渉を開催する条件であると主張して、団体交渉に応じなかった。

2  同月二五日補助参加人地方金属が団体交渉の督促をし、補助参加人清和労組が同月二八日に原告の同月一八日付け文書による質問に対し回答したところ、原告は、同年二月八日、補助参加人清和労組の回答が不十分であるとして更に回答を求めるとともに、同年一月一一日付けの団体交渉申入れ事項である暫定労働協約の締結等についてこれを拒否する旨回答した。そして、同年二月一五日、補助参加人清和労組の要求についての対案を提出し、補助参加人清和労組のこれに対する回答等を求めた。

3  補助参加人清和労組は、同月一八日付け及び二二日付け文書で再度団体交渉を申し入れ、初審命令後も、同年三月三日付け及び同月七日付け文書で同年一月一一日付けの団体交渉申入れ事項について団体交渉を申し入れたところ、原告は、同年三月一八日、右原告の対案に対する回答を求めるなどの内容の文書を提出して、右四通の団体交渉申入れに対する回答とし、労使が直接話し合う方式による団体交渉には応じなかった。

以上の本件の事実経過によると、原告は、補助参加人清和労組が結成されたことを認識した後においても、同補助参加人からの団体交渉の申入れに対して書面の交換による交渉に固執し、直接話し合うことを拒否していたものであり、原告のこのような態度は、誠実に団体交渉に応じたものということはできない。原告は、労働組合法上、団体交渉の方式に制限はなく、原告が選択した書面による団体交渉も適法であって、団体交渉義務を尽くしていると主張する。しかしながら、団体交渉は、その制度の趣旨からみて、労使が直接話し合う方式によるのが原則であるというべきであって、書面の交換による方法が許される場合があるとしても、それによって団体交渉義務の履行があったということができるのは、直接話し合う方式を採ることが困難であるなど特段の事情があるときに限ると解すべきである。本件においては、このような事情を認めるに足りる証拠はないのであるから、補助参加人清和労組の団体交渉の申入れに対し、原告が書面による回答をしたことにより、団体交渉義務を尽くしたものとはいえないことは明らかである。したがって、原告の右主張は理由がない。

次に、原告は、本件命令のポスト・ノーティス条項が違憲、違法であると主張する。しかし、本件の右条項は、不当労働行為を行ったと認められる使用者に対して、今後そのような不当労働行為を繰り返さないことを約束する趣旨の文書を組合に手交することを命ずるもので、いわば当然の義務に従うことをその相手方に表明するものに過ぎず、「誓約」という文言が使用されているからといって、思想、良心の自由と直接関係するものではなく、憲法一九条に違反しないというべきである。また、本件において、原告主張のように、原告が書面による団体交渉で十分であると考えたとしても、右の誓約文書を手交することを命じたことが、労働委員会の裁量権を逸脱しているものということはできない。そうすると、原告の右主張も失当である。

三以上によれば、本件命令は違法ということはできず、原告の請求は理由がないから、これを棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官相良朋紀 裁判官酒井正史 裁判官阿部正幸)

別紙命令書

申立人 全国金属産業労働組合同盟福島地方金属

執行委員長 深野一雄

申立人 全金同盟福島地方金属清和電器労働組合

執行委員長 野地芳夫

被申立人 清和電器産業株式会社

代表取締役 石川保男

主文

一、被申立人は、申立人全金同盟福島地方金属清和電器労働組合が昭和六三年一月一一日付で申し入れた団体交渉に、速やかに応じなければならない。

二、被申立人は、前項の履行状況について、この命令の到達した日から一五日以内に、当委員会に文書で報告しなければならない。

三、被申立人は、この命令の到達した日から七日以内に、下記の内容を文書にして、申立人全金同盟福島地方金属清和電器労働組合に手交しなければならない。

昭和 年 月 日

全金同盟福島地方金属清和電器労働組合

執行委員長 野地芳夫殿

清和電器産業株式会社

代表取締役 石川保男

当社が、貴組合から昭和六三年一月一一日付で団体交渉の申し入れがあったにもかかわらず、条件を付けて、これに応じなかったことは、福島県地方労働委員会において、労働組合法第七条第二号に該当する不当労働行為であると認定されました。

今後は、このようなことを繰り返さないことを誓約いたします。

(注:日付は、手交する日とする)

理由

第一 認定した事実

1 当事者

(1) 申立人全国金属産業同盟福島地方金属(以下「地方金属」という。)は、昭和四〇年五月九日に結成され、上記肩書地に事務所を置き、福島県下において金属関係労働組合を構成員とする連合団体たる労働組合である。

(2) 申立人全金同盟福島地方金属清和電器労働組合(以下「清和労組」という。)は、昭和六三年一月一〇日に結成され、上記肩書地に事務所を置き、清和電器産業株式会社で働く労働者をもって組織する労働組合であり、組合員数は結審時において約一一〇名である。

(3) 被申立人清和電器産業株式会社(以下「会社」という。)は、昭和三六年六月二三日に設立され、上記肩書地に本社を置き、いわき市泉町下川字大剣三九二の一の小名浜第一工場(以下「第一工場」という。)及び同市泉町黒須野字江越二四六の一二の小名浜第二工場(以下「第二工場」という。)において電気部品の製造及び組立の業務を営んでおり、従業員数は結審時において約一五〇名である。

2 本件申立ての経緯

(1) 清和労組の結成

会社の従業員有志は労働組合を結成すべく準備を進めていたが、第一工場及び第二工場の従業員三四名の賛同を得て昭和六三年一月一〇日結成大会を開催し、組合規約を定め、それに基づく組合役員を選出して清和労組を発足させ、即日、清和労組は地方金属に加盟した。

(2) 団体交渉にかかる経緯

ア 一月一一日、清和労組の執行委員長・野地芳夫外三名とその上部団体の役員六名は、清和労組結成通知書を手交するため第一工場において会社代表取締役石川保男(以下「社長」という。)との面会を求めた。しかし、社長が不在のため、会社総務課長吉田三良(以下「吉田課長」という。)に会い、清和労組結成通知書を手交した。また同時に、「暫定労働協約の締結について」外二項目を議題とする団体交渉を一月一八日に開催したい旨の「申入書」を手交した。

その際、吉田課長は、団体交渉の日程について、一月一二日までに返答すると答えた。

イ 一月一三日、当日に至るも団体交渉の申入れに対する返答がないため、地方金属は、会社に対して「申し入れ書」を提出し団体交渉の督促をしたが、会社からは何の意思表示もなかった。

ウ 一月一八日、会社は清和労組に対し次の文書を提出した。

質問、申し入れ並びに回答書

一、この度、総務課長が突然貴殿名による昭和六三年一月一一日付文書二通を受領し、貴殿らと面会、お話をお伺い致しましたが、次の点について不明でありますので、ご回答を求めます。

(一) 昭和六三年一月一〇日に労働組合を結成し、上部団体に加盟したとのことでありますが、当日は、「組合の結成大会は行なわれていない。組合規約並びに要求事項の審議も行っていない。また、組合役員も一部の人達によって事前に決められたものであり、役員の選挙も行っていない。」と聞き及んでおります。(労働組合法第五条組合役員は組合員の直接無記名投票により選挙されること)当日、清和電器産業株式会社の従業員をもって組織されたとする労働組合は、真実適法に結成され、かつ適法な手続きによって組合役員が選出されたのでしょうか。また正規の手続きを経て組合規約を制定したのでしょうか。文書をもってご回答くださるよう申し入れます。

(二) 正規の組合規約を提出されないのは何故でしょうか。

組合規約を至急提出してください。提出がなければ、会社は組合が適法なものであるか否か判断できません。

(三) 貴組合は労働組合法上、独立した自主的な労働組合であるのでしょうか。それとも労働組合法上、独立した自主的な組合でなく、単に上部団体に従属した手足に過ぎないのでしょうか。

その点、明確なるご回答をください。

(四) 貴組合の協定当事者適格(協定締結能力・権限並びに団体交渉の主体)について明確にするため、次の諸点についてご回答下さい。

(ア) 委員長及び組合役員の権限・責任。

(イ) 委員長が組合を代表できるのか否か。

(ウ) 組合員の権利と義務。

(エ) 委員長が組合内で発生したすべての問題を処理し、解決する権限を有するのか否か。

(オ) 組合及び組合員のすべての行為に関し、一切の責任(処分・損害賠償等を含む)は、組合役員と一般組合員が負うのか。

(五) 一部管理監督者(リーダーを含む)が中心となって、その職務と権限を利用し、または、職務を放棄し秘密裡に組合結成を準備し、組合活動を行ったとのことであるが、これは事実であるのか否か、文書でご回答ください。

(六) 貴殿から前(一)、(二)、(三)、(四)、について明確なご回答、提出があり、しかも貴組合が労働組合法上、適法かつ独立した労働組合で、協定に関する締結能力、権限、団体交渉の主体等を有することが明らかにならなければ、申し入れられている団体交渉は開催のしようがありません。至急文書をもって明らかにしてください。また、会社は貴組合が労働組合法上、適法かつ独立した労働組合で、しかも適法な手続きを経て選出された代表者以外の者とは団体交渉をするわけにはいきません。

尚、全組合役員名簿の提出を求めます。

二、貴組合に所属する従業員名簿があれば、その提出を要望します。

三、次に会社の申し入れと見解を申しあげておきます。

(一) 多数の従業員より

「管理監督者(リーダーを含む)が組合活動をやっているのはおかしい。」

「管理監督者(リーダーを含む)が組合に加入している組合は労働組合ではない。」

「しらないうちにかってに組合員にされて困っている。」

「一部管理監督者(リーダーを含む)が職務と権限を利用し、組合加入活動をしたのでやむを得ず加入した。」

など数多くの問い合せがきています。もし、このことが事実であれば、事は重大です。加入を強要したり、従業員の名前をかってに使用することのないよう、申し入れておきます。

組合は民主的な団体でなければなりません。したがって、従業員が組合に加入するか、しないかは全く自由でなければなりません。

また、組合からの脱退に関しても、「自らの意思で脱退することは自由であり、組合がこれを拒否したり、阻止したりすることはできない。」

「脱退の自由を不当に制限することは違法であり、その組合の行為は無効である。」との裁判所の判決もあります。

(二) 組合活動に関し、一部に誤解している人がいます。

組合であればなにをやっても自由であるという法律はありません。

組合活動は、就業時間外しかも会社施設構外で行うことは自由であるが、就業時間中はもちろん、就業時間外であっても、また会社施設構内において会社の許可なく組合活動並びに業務外の目的で会社施設(作業場・食堂・会議室・掲示板・電話・什器備品等)を使用することは違法行為となります。このことは最高裁の判決によって確定しています。

なお、不幸にしてかかる行為が行なわれた場合は、組合役員並びに実行行為者に対し、責任追求(処分を含む)せざるを得ない結果を招きますので、この点、くれぐれもかかることのないよう申し入れておきます。

(三) 今後、会社に回答を求める文書(申入書を含む)は、少なくとも七労働日前までに提出されませんと、会社は業務の都合により回答できかねますので、その旨予め申し入れておきます。

四、貴殿から提出がありました暫定労働協約(案)・賃金控除協定(案)・時間外及び休日労働に関する協定(案)については現在検討中であります。後日文書をもって回答します。

五、会社に対し、何かご質問事項がありましたら、ご遠慮なく文書をもって申し出ください。会社は文書をもって回答します。

六、本回答並びに申し入れをもって貴殿の一月一一日付文書(二通)に対する回答とします。

以上

昭六三年一月一八日

清和電器産業株式会社

取締役社長 石川保男

全金同盟清和電器産業労働組合

執行委員長 野地芳夫殿

この文書を受けて同日夕刻、清和労組役員四名及び上部団体役員三名は、社長外二名と面談し、会社の質問は団体交渉の中で解決すべき事項であると主張して、団体交渉の開催を重ねて申し入れた。一方、会社側は、会社の質問に対して清和労組が文書で回答することが団体交渉を開催する前提条件だと主張し、お互いに譲らず、物別れに終った。

エ 一月二五日、地方金属は、会社に対して団体交渉開催の督促を内容とする「警告書」を提出した。

オ 一月二八日、清和労組は、会社に対し次の文書を提出した。

昭和六三年一月二八日

清和電器産業株式会社

取締役社長 石川保男殿

全金同盟福島地方金属

清和電器労働組合

執行委員長 野地芳夫

回答書

一月一八日付、貴会社よりの質問に対し、下記の通り返答します。

1について

① 適法であり、正規の手続きを経て、組合規約を制定した。

② 一月一二日、午後六時、社長室にて吉田総務課長に、野地委員長より提出済み。

③ 労働組合法、第二条の条件を満たしている組合である。

④ 協定当事者、適格について、会社は指摘することの権限は何をもって根拠としているのか。ア〜オについては、組合規約の中で、明らかでありまた、労働法、ならびに協定する労働協約による。

⑤ 労働組合を結成するのに、だれが中心であるかは、労働法に抵触しないかぎり会社の関知すべき問題でない。

⑥ 団体交渉を行うのにあれこれ条件をつけ会社に都合が良くなければ、団交を拒否するかのごと貴文書は、不当労働行為であるので撤回されたい。

2について

後日提出します。

3について

① 会社から、組合活動についてとやかく、言われる必要はありません。

② 組合活動に対するルール作りをする為労働協約を速やかに締結し、民主的で正常な労使関係の確立を計りたい。

③ 一方的な会社の姿勢は改められたい。

いずれにせよ、団交を拒否したこと、文体の全面において、組合忌避の色合いが濃く、全金同盟はじめとする、県同盟当労組に対する、重大な挑発と受けとめざるを得ない。

以上

カ 二月八日、会社は清和労組に対し次の文書を提出した。

回答並びに申し入れ書

一、貴昭和六三年一月二八日付文書に対し次のとおり回答並びに申し入れます。

(一) 貴1の①について

極めて抽象的な表現であり、具体的かつ明確にご回答くださるよう申し入れます。

(二) 貴1の②について

提出されたものは、第一号議案『組合規約(案)の原稿のようなもの』と書かれている書面であります。

正規の組合規約の提出を求めます。

(三) 貴1の③について

極めて抽象的な表現であり、具体的かつ明確にご回答くださるよう申し入れます。

(四) 貴1の④について

極めて抽象的な表現であり、具体的かつ明確にご回答くださるよう申し入れます。

(五) 貴1の⑤について

質問に正確にご回答くださるよう申し入れます。

(六) 貴1の⑥について

会社は団体交渉を不当に拒否しておりません。

なお、全組合役員名簿の提出も求めます。

(七) 貴2について

後日提出されるとのことでありますので、了承いたします。

いつ頃までにご提出くださるのでしょうか。

(八) 貴3の①②③について

正常な労使関係の確立とは矛盾する貴殿の主張は、甚だ残念に思います。

二、昭和六三年一月一一日付別紙要求事項『労働協約・協定(案)』に対し次のとおり回答します。

(一) 暫定労働協約(案)について

各条項について検討の結果、いずれも現行どおりとします。

なお、二月一五日までに対案を提出します。

(二) 賃金控除協定書(案)について

検討の結果、現行どおりとします。

なお二月一五日までに対案を提出します。

(三) 時間外及び休日労働に関する協定書(案)について

検討の結果、当面は現行どおりとします。

なお後日対案を提出します。

以上に対し、貴殿のご意見並びにご回答を文書でくださるよう求めます。

昭和六三年二月八日

清和電器産業株式会社

取締役社長 石川保男

全金同盟清和電器労働組合

執行委員長 野地芳夫殿

(3) あっせん申請の経緯

清和労組は、一月一九日、団体交渉応諾をあっせん事項として、当委員会にあっせん申請をしたが、会社は一月二六日付文書であっせんを辞退してきた。当委員会は、実情を把握するため、一月二八日、労働委員会規則第六二条の二による事務局調査を行わせたが、会社はこれを拒否した。このため、あっせんを行うことが困難であると判断し、一月三〇日にあっせんを打切った。

(4) 申立人組合の組合規約

二月三日開催の第四〇六回及び三月二日開催の第四〇八回公益委員会議において、申立人組合の組合資格審査を実施したが、組合規約等には特に問題は見受けられなかった。

(5) 不当労働行為救済申立て

ア 一月二九日、地方金属及び清和労組は、団体交渉応諾、支配介入行為禁止及び陳謝文の掲示等を命令するよう求めて本件申立てに及んだ。

イ 二月一二日、第一回審問を開催したが、被申立人は、当日までに答弁書、準備書面及び証拠の提出をせず、審問自体も欠席した。

同日、当委員会は、本命令書「第二判断、1」に記載のとおり、この事件を分離した。

ウ 二月一七日、本件第二回審問を開催したが、被申立人は、吉田課長をして当日書証の提出を行わせたものの、審問には出席しなかった。

同日、本件は結審した。

エ 二月二九日、被申立人は、最終陳述書を提出した。

(6) 会合による交渉

本件審問を終結した二月一七日現在において、会合による交渉は行われていない。

第二 判断

1 審査の分離について

福地労委昭和六三年(不)第一号事件の請求する救済内容は、①団体交渉応諾、②支配介入行為の禁止、及び③謝罪文の掲示等にわたるけれども、当委員会は、二月一二日、上記①、及び③のうち①に関する部分の審査の分離を決定し、当該部分につき審問を終結したものである。

2 当事者の主張

(1) 申立人の主張

申立人は、次のとおり主張する。

清和労組が昭和六三年一月一一日に申し入れた団体交渉を会社が拒否していることは明らかであり、このことは、労働組合法第七条第二号の不当労働行為にあたる。

(2) 被申立人の主張

被申立人は、次のとおり主張する。

ア 会社は、清和労組が団体交渉の相手として適格性を有する否か検討する時間的余裕を持つことには合理性があり、また、団体交渉要求事項を検討したうえで対案を提示したのであって、このために多少時間がかかっているが、事案の重要性・複雑性と会社の不慣れな点を鑑みればやむを得ぬところであり、これをもって非難されるいわれはない。

イ 会社が団体交渉に応じるべき義務は債務であり、しかもその交渉方式の選択権については民法の選択債権の規定が類推適用される。そして、会社は文書により清和労組の要求に対する対案等を提示しており、文書の交換も団体交渉の一方式であるから、不当労働行為と目すべき団体交渉拒否の事実は存在しない。

3 当委員会の判断

(1) 申立人が一月一一日付「団体交渉の申し入れ」により「暫定労働協約の締結について」外二項目の議題について団体交渉を申し入れたこと、以後一月一八日付会社の「質問、申し入れ並びに回答書」・一月二八日付清和労組の「回答書」・二月八日付会社の「回答並びに申入書」と文書の往復があったこと及び本件審問を終結した二月一七日現在において会合による交渉が行われていないことについては、当委員会が「第一 認定した事実2、(2)・(6)」において認定したとおりである。

(2) 団体交渉は、労働組合法による組合のみがなし得るものではなく、労働者の団結権の行使として団結した労働者が、その威力を背景として、労働条件の向上等につき使用者と対等の立場で交渉をするものであるから、本件のように会社が組合の適格性を疑問視して団体交渉を拒否することが許されるものではなく、さらに、申立人は、当委員会が「第一 認定した事実1、(1)・(2)、同2、(1)・(4)」において認定したとおり適法に結成された労働組合であるから、その適格性を検討したからといって、団体交渉を避けたことには、合理性を認めることができず、また、対案の検討と提示は本来団体交渉の過程でなされるべきものであって、その検討と提示に時間をとられたとする主張も、合理性がない。

(3) 被申立人は、どのような団体交渉の方式を採用するかは会社に選択権があると主張するが、団体交渉に応じるべき義務は、民法上の義務ではなく労働組合法上の義務であり、被申立人の主張は認められない。

そもそも労働組合法が団体交渉として予定しているものは会合による交渉であり、それは労働者の団結の威力を背景として使用者側と交渉する、憲法によって認められた権利であることは、前記(2)において判断したとおりであって、労使間に特段の合意があるなら格別、一方的な文書の提示によって団体交渉に応諾したとする被申立人の主張は受け入れることができない。

(4) 以上に判断したとおり、被申立人には、申立人からの団体交渉を拒否し得る正当な理由が認められないので、被申立人の態度は、労働組合法第七条第二号に規定する不当労働行為と言わざるを得ない。

(5) 最後に、申立人は陳謝文の掲示等についても求めているが、労使関係の正常化のためには、主文第三項記載の誓約書の手交が相当であると判断する。

第三 法律上の根拠

以上のとおりであるから、労働組合法第二七条及び労働委員会規則第四三条の規定を適用して主文のとおり命令する。

昭和六三年三月二日

福島県地方労働委員会

会長 土屋芳雄

別紙命令書

再審査申立人 清和電器産業株式会社

代表取締役 石川保男

再審査被申立人 全国金属産業労働組合同盟福島地方金属

執行委員長 深野一雄

再審査被申立人 全金同盟福島地方金属清和電器労働組合

執行委員長 野地芳夫

主文

本件再審査申立てを棄却する。

理由

第一 当委員会の認定した事実

当委員会の認定した事実は、本件初審命令の理由第一の認定した事実のうち、その一部を次のように改めるほかは当該認定した事実と同一であるので、これを引用する。この場合において、引用した部分中「申立人」とあるのは「再審査被申立人」と、「被申立人」とあるのは「再審査申立人」と、「結審時」とあるのは「初審審問終結時」と、「本件」とあるのは「本件初審」と、「当委員会」とあるのは「福島県地方労働委員会」と読み替えるものとする。

1 2の(2)のカの次にキ及びクとして次のように加える。

キ 二月一五日、会社は、清和労組に対し、清和労組の暫定労働協約の締結等の要求についての対案として「労働協約(案)」及び「賃金控除協定(案)」を提出するとともに、上記の対案に対する検討結果についての回答等を求めた。

ク 清和労組は、会社に対し、一月一一日付け団体交渉申入事項について二月一八日付け及び同月二二日付け文書をもって、それぞれ団体交渉を申し入れた。

2 2の(5)のイ中「同日、」以下を次のように改める。

同日、福島県地方労働委員会は、福島地労委昭和六三年(不)第一号事件の請求する救済内容が、①団体交渉応諾、②支配介入行為の禁止及び③謝罪文の掲示にわたるものであったが、上記①及び③のうち①に関する部分の審査を同昭和六三年(不)第一号の一事件として分離することを決定した。

3 2の(6)を削る。

4 2の次に3として次のように加える。

3 初審命令後の経過

(1) 清和労組は、会社に対し、一月一一日付け団体交渉申入事項について三月三日付け及び同月七日付け文書をもって、それぞれ団体交渉を申し入れた。

(2) 三月一八日、会社は、清和労組に対し、次の文書を提出した。

回答・催促並びに申し入れ書

一、会社は貴要求事項に対し慎重に検討した結果、貴宛昭和六三年二月八日付文書をもって回答し、さらに、貴宛昭和六三年二月一五日付文書をもって対案も提出しました。

貴殿においてご検討の上、昭和六三年二月二九日までにご回答、あるいは疑問点があれば、ご質問をいただくことになっておりましたが、未だにご回答、あるいはご質問がありません。至急文書にてご回答、あるいはご質問ください。

なお、三月二五日までに文書にて対案に対するご質問がなければ、ご質問がないものと考えます。

二、会社は貴宛昭和六三年二月八日付回答並びに申し入れ書第二項(三)により、別紙対案を提出します。

ご検討の上、三月三一日までに文書にてご回答ください。

なお、対案に疑問点があれば、文書にてご質問ください。会社はさらに文書にて説明する用意があります。

三、本文書をもって貴昭和六三年二月一八日付、同年二月二二日付、同年三月三日付及び同年三月七日付文書に対する回答とします。

昭和六三年三月一八日

清和電器産業株式会社

取締役社長 石川保男

全金同盟清和電器労働組合

執行委員長 野地芳夫殿

なお、会社は、上記文書の別紙として、「時間外及び休日労働に関する協定(案)」を添付している。

(3) 本件再審査審問終結時現在、会社は、文書をもって回答、申入れをしたほかに直接話し合う方式による団体交渉には応じていない。

第二 当委員会の判断

会社は、初審命令が、清和労組の団体交渉申入れに対する会社の態度は、労働組合法第七条第二号に規定する不当労働行為と言わざるを得ないと判断したことを不服として、再審査を申し立てているので、以下判断する。

1 会社は、清和労組の昭和六三年一月一一日付け団体交渉申入事項に対して、会社側の対案をもって回答し、その対案について疑問があれば更に回答する旨の意思表示を行っており、会社の団体交渉義務は尽くされているのであるから、初審命令はこの点を見過した違法があると主張する。

しかしながら、前記第一により引用する初審命令理由第一の2の(2)、前記第一の1により加えるキ及びク並びに同4により加える3認定のとおり、組合側は、一月一一日付けで団体交渉を申し入れ、これを督促する等し、その後も上記団体交渉申入事項について四回にわたり団体交渉に応じるよう申し入れているのに対し、会社は専ら、一方的に文書による回答、申入れ及び対案の提示をする方式に固執し、本件再審査審問終結時現在においても、直接話し合う方式による交渉に応じていないことが認められる。したがって、労使間に交渉方式について格別の合意があればともかく、そのような合意が認められない本件においては、上記のような会社の対応をもってしては、会社が労働組合法にいう団体交渉に応じているものとは言えないから、この点に関する会社の主張は採用できない。

2 会社は、本件初審命令主文第三項において手交を命じた文書に、「誓約」の文言を入れることを義務付けていることは良心の自由を侵すことになる等として、初審命令はこの点についても違法があると主張する。

しかしながら、不当労働行為救済制度の趣旨にかんがみて、労働委員会が不当労働行為を行った使用者に対して、そのような行為を繰り返さないことを誓約する内容の文書を労働組合に手交するよう命じたからといって、直ちに使用者の良心の自由を侵すものではない。したがって、この点に関する会社の主張も採用できない。

以上のとおり、本件再審査申立てには理由がない。

よって、労働組合法第二五条及び第二七条並びに労働委員会規則第五五条の規定に基づき、主文のとおり命令する。

昭和六三年一〇月一九日

中央労働委員会会長 石川吉右衞門

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